2007年06月07日

大河内,一男 イギリスの労働組合--「痩せたソクラテス」ではなく「肥った豚」を

大河内,一男
イギリスの労働組合--「痩せたソクラテス」ではなく「肥った豚」
世界週報 36(10),16〜??,1955/04/01(ISSN 09110003) (時事通信社)

イギリスの労働組合 □「痩せたソクラテス」ではなく「肥った豚」を□
  12信 マルセイユにて

組合員数の増加より重要なのは組合規模の問題である
総数の四分の一に近い二百十万余が「一般労働組合員」
労組陣営には三つの型の労働組合が鼎立錯綜している
数は飽和点にある。問題は当面雑然たる組合分野の整理
ひとつの組合の組合員は企業の枠を超え全産業に跨がる
数の飽和点ばかりか組織の上でも限界に達している
各種社会改良の堆積は却って資本主義と妥協を深めた
英国の場合よき物は徐々にではあるが確実に来ている様に見える
「社会的責任」をとる立場が特徴をなし又危機を生む
危機は組合の指導する者と指導されるものの割れ目にある
組合はしだいに上部の意志伝達機関の性格を強めて来る
イギリスの大組合組織が必要とするのは練達の実務家
指導者の第二部類支部役員とショップ・スチュアード
下級組合指導者は次第に経営内分担者的役目を背負う
英国労組運動の停滞と行き詰りと危機はここに存在する
組織労働者約九百五十万人は既に今日特権階級である
生活水準上下の断層が消えて、地ならしが行なわれた
もうイギリスでは誰も飢え死にするようなことはない
そこから生まれるものは一種の現状満足と理想の喪失
だがこうした「安定」は裏を返せば生活の停滞である

 だがこうした安定とは、裏をかえせばイギリス人の生活の停滞だとも言える。社会的目標や理念をもたない生活の安定。少なくとも、それらのものを喪った生活の安定というものは、同時に、生活の停滞を含んでいる。イギリスの労働運動が、どの方向へ向かって船を走らせているのかが、定かでなければ、イギリス労働者の生活自体も目的や意義をうしない、ただその時その時の生活を楽しむという甚だ実利的な態度に落ち込んでしまうのも当然のことであるかも知れない。イギリス社会主義の世俗化された形態が「福祉国家」だとするなら、この実利主義的な生活国家は、またそれに適合したような人間を、いわば福祉国家的人間を作りだすのである。J・S・ミルとはちがって「痩せたソクラテス」を敬遠してむしろ進んで「肥った豚」―― 労働組合と社会保障と「福祉国家」の餌で飼いならされた ―― となることを望んでいるように思われる。
posted by raycy at 22:31| Comment(0) | TrackBack(6) | 本メディア | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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